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楮毫(ちょごう)


「楮毫」は紙と筆の意。「楮」(こうぞ)は和紙の原料となる植物。「毫」は筆の穂先。(今年のタイトルは漱石・『草枕』の難解熟語)

 今回は、過去の写真から涼しげなものを選んでブログを作った。短歌は『昭和万葉集秀歌 【三】 四季・自然』(講談社現代新書・上田三四二 編、昭和60年1月刊)から。作者名の後の数字は昭和何年の、或いは何年何月の発表かを示す。

 (あかとき)とおもふばかりにあかるきは月のひかりのさしそめにけむ (藤川忠治・31)

 s-江竜田の滝
 江竜田の滝(4葉)

 海
 海に向く窓より海はみえなくに甍(いらか)の上にひくき岬山(さきやま) (五味保義・16)

 s-江竜田の滝①

 かたまりて昼顔咲ける砂山をめぐりて潮の満ちくる音す (中嶋真珠・10.9)

 s-江竜田の滝③

 磯に寄せてきほひ脹(ふく)るる大き浪ひかりを巻きて打返りたり (杉浦翠子・3)
 
 s-江竜田の滝②

 渦なせる逆さ白波はひろごりて押しうつりゆく潮ゆたかなり (松田常憲・7)

 s-四時川渓谷
 四時川渓谷(3葉)
 
 兄島を榜ぎ回(こぎた)み行けばちちのみの父島見えつ朝明(あさけ)の海に (中島敦・35)
 *「榜ぎ回み」=船を漕ぎめぐり。「ちちのみの」=「父」にかかる枕詞。

 s-四時川渓谷②

 立山の外山(とやま)が空の蒼(あお)深み一つの鷲の飛びて久しき (川田順・15)

 s-四時川渓谷③

 山頂に雷鳴ありて幾度か保安器を撃ち青き火を放つ (新田次郎)

 s-小浜海岸
 小浜海岸

 三原山噴くにかあらむ御神火の常ことなりて今宵かぐろき (海野潔・9.3)
 *「御神火」=火山の噴火を神聖視していう語。「かぐろき」=黒い。

 s-鮫川大橋
 鮫川大橋

 稲原の早生穂(わせほ)にしろく照る月は夜ごとに明し山の峡(かひ)にも (中村憲吉・9)

 s-蓮
 ハス

 以下、『現代短歌の歩み』(武川忠一著・飯塚書店・2007年6月刊)に依る。

 窪田空穂に『捕虜の死』という大長編の長歌がある。万葉集以来の最大長編。次男茂二郎のシベリア抑留中の死を悼んだもの。茂二郎の死は生還した戦友から昭和22年5月に知らされた。空穂は病床にあり、70歳。それでも残された力を振り絞って、五連・二百二十九句の最大長歌を詠んだ。

 捕虜の死   窪田空穂

 兵として北支派遣軍下にありし次男茂二郎、久しく消息を絶ち、生死すら不明にて過ごせるが、五月中旬、茂二郎が戦友の一人なりといふ米村英男君、はからずも我が家を訪はれ、茂二郎の消息を傳へらる。同君も茂二郎と同じく身體弱きため、入隊以来三年間、あやしくも行動を共にし、その一切を知悉せるにより、仔細に告げられしなり。茂二郎は終戦直前、北支より内地防衛軍に向けられし汽車中、ソ聯開戦によりて満州に移され、終戦と共に捕虜としてシベリアなるイルクーツクチェレンホーボに捕虜の身となれるが、二十一年二月十日、発疹チフスに罹り、死去せりといふ。今より一年三箇月前のことなり。我は床上の身として親しく聴くを得ず、章一郎の傳ふるところを聴きて胸臆に反芻するのみ。

 
 シベリアの涯なき曠野、イルクーツクチェレンホーボの バイカル湖越えたるあなた、炭山を近く望みて あはれなる宿舎むらがる。名にこそは宿舎ともいへ、土浅く廣く掘りては かりそめの仮屋根葺き 出入り口一つ設けし 床すらもあらぬ土室、戦前は囚人住みて 勞役に服せるあとか。かかる室ならび群がり 鐵條網めぐらす内に、在満の我が兵五千 捕虜として入れられにける。

 s-夕焼け20180809

 厳冬のチェレンホーボは 氷點下五六十度か、言絶ゆる畏き寒威 人間の感覚を斷ち、おのが息眞白き見ては 命なほありと思ふに、勞役の搾取のほかは 思ふなき國にかあらし 働かぬ冬は食ふなと 生きの命つなぐに足らぬ 高粱のいささか與へ 粥として食はしむるのみ。夜となれば床なきままに、土に置く狭き板の上 押竝び二人いねては、一枚の毛布をかぶりて 軆温をかよはし眠る。目的を失へるどち 言ふことの何のあらむや、つぶやくは常つづく饑 眼に迫る戀しき祖國、口にすれば暫しまぎるる かひあらぬ訴のみなる。

 s-夕焼け②20180809

 わりなきはただ一着の 身につくる軍服かな、薄くして寒氣のとおり、著きらしてぼろぼろなるに、著がへなきそのシャツをしも、おのれ等が巣どころとなし 饑うる身を食となしつつ ふえにふゆる虱の族よ、その數は幾そくばくぞ。臍のあたり手もて探せばいく匹をとらへは得れど、脱げば身のこほる寒氣に 捕り減らすことすらならぬ。全員の五千に巣くふ この虱チフス菌もち、吸ひし血に代へて殘せば、あはれ見よ忽ちにして大方は病者となりつ、高熱にあへぎにあへぐ。醫師をらず薬餌のあらず、あるものは高粱のみの、この患者いかにかすべき。悲しきは生を欲する 人間の本性なるよ、食はざれば死せむと思ひ 強ひてすする堅きその粥、衰へし腸ををかして 一たびの下痢を起せば、その下痢やとまる時なく 見る見るに面形かはり、物言ひをしつつ息絶ゆ。ここの水ははなはだ惡るし 高熱の渇きこらへて 飲むな夢と相警むれ、飲まざるも命堪へえで 一日に何十人は 息せざる者となりゆく。チェレンホーボ長き一冬、千人や屍軆となりし。

 s-夕焼け③20180809

 戦友のこの悲しきを いかさまに葬りなむか、全土ただ大氷塊の 堀りぬべき土のあるなし。ダイナマイト轟かしめて 氷塊に大き穴うがち、動きうる人ら掻き抱き その中にをさめ隠しつ。初夏の日に氷うすらぎ あらはるる屍軆を見れば、死ぬる日の面形保ち さながらに氷れるあはれさ。その屍軆トラックに積み 囚人の共同墓地ある 程近き岡に運びて、一穴に五人を葬り、捕虜番號書ける墓標を 人の身の形見とはなし、千人の戦友の墓 さびしくも築き竝べけり。

 s-夕焼け④20180809

 死を期して祖國を出でし 國防の兵なる彼等、その死のいかにありとも 今更に嘆くとはせじ。さあれ思ふ捕虜なる兵は いにしへの奴隷にはあらず、人外の者と見なして 勞力の搾取をする 奴隷をば今に見むとは。彼等皆死せるにあらず 殺されて死にゆけるなり、家畜にも劣るさまもて 殺されて死にゆけるなり。嘆かずてあり得むやは。この中に吾子まじれり、むごきかな あはれむごきかな かはゆき吾子。


 八月は千万の死のたましずめ夾竹桃重し満開の花 (山田あき・『現代短歌集成3』から。角川学芸出版刊)

 皆さま、ご自愛専一に願います。 

澆季溷濁(ぎょうきこんだく)

 今年のタイトルは、漱石の「草枕」に散りばめられている難解四文字熟語。「澆季溷濁」は、思いやりなどの人らしい感情が薄くなり、善悪や正邪の基準がおかしくなって世の中が乱れること。

 明けましておめでとうございます。年末のお酒と今日の雑煮で体が重いので15時過ぎに散歩に。
 カーブミラーに反射した夕日が、路上に光の輪を描いていた。
 s-光の輪②20180101

 こちらは鶴沼にて。ピンクの水玉が入ってる。何これ?
 s-お正月の夕日20180101

今日はこれだけ。今年もよろしくお願いします。

金盞香(きんせんかさく)


 「金盞香」は24節気「立冬」の末候(11/17~21)。水仙が咲いて、あたりに芳香が漂う頃の意。すっかり空が高くなって、空気が引き締まってきた。

 今日(11/19)は好天。洗濯・掃除を済ませて、石岡市にある茨城県フラワーパークへ。冬薔薇が陽射しを浴びていた。
 今回は、岡本かの子。明治22年3月1日~昭和14年2月18日。夫は画家の岡本一平。岡本太郎は息子。「わが愛する歌人 第一集」(有斐閣新書、昭和53年刊)から。同書は第四集まであるが、アマゾンでそれぞれ1円~5円で購入。本の状態は全く問題なし。

 伏しおがむ姿なりしよおのづから気づけるときのわれの姿は 
s-バラ20171119

 行き暮れて灯影へ急ぐ旅人のかなしく静けき心となりたや
 s-バラ②20171119

 世の限り厨にありて水瓶のかげの蝉(いとど)の声に泣かまし
 s-バラ③20171119

 かの子よ汝が枇杷の実のごと明るき瞳このごろやせて何かなげける
 s-バラ④20171119

 十万世界に月照れれども草むらはおぐらくして虫啼けりけり
 s-バラ⑤20171119

 桜ばないのち一ぱいに咲くからに生命(いのち)かけてわが眺めたり
 s-バラ⑥20171119

 夜となりぬわれまたおもふ武蔵野の木の間の家に燈ともす母
 s-バラ⑦20171119

 このわれや寂しかれども天地の笑みかたまくる春はうれしき
 s-バラ⑧20171119

 わが生くるこのうつくし世を吹く風にけふも一日(いちじつ)ふかれつつ居る
 s-バラ⑨20171119

 うつし世を夢幻とおもへども百合あかあかと咲きにけるかも
 s-バラ⑩20171119

 うつらうつらわが夢むらく遠方(おちかた)の水晶山に散るさくらばな
 s-紅葉20171119

  まさびしき畑のさまかな帚木はははきとなりて刈り去られけり
 s-紅葉②2017119

 よべよりの心のなやみに沁むものか今朝降りしきる雪のしらたへ
 s-紅葉③20171119

 おろかなるわれとおもふに夜の燈のひとつさへ持つありがたきかも
 s-紅葉④20171119

 岡本かな子は、50歳まであと10日という時に没。死因は3度目の脳溢血。自分のことを「私は三つの瘤を持つ駱駝だ。一つは短歌、一つは仏教、一つは小説」と言っていた。仏号を「雪華」という大乗哲学者としても知られ、没年に発表した小説「老妓抄」は文壇を挙げての絶賛を受けている。
 一方で、岡本一平の居る自宅で自分の年若い愛人とも同居し、さらにかの子の妹も同居し、かの子は神経を痛めて精神病院に入院するなど、地獄のような苦難もなめた凄まじき人生。

 今日は11月下旬とはいえ、温かい陽射しの中を散策でき、いい一日でした。残念なのは、俄か茨城県人として応援している高安も稀勢里も敗れたこと。ガンバレ~!! 皆さま、お健やかにお過ごし願います。

 


 
 
 

禾乃登(こくものすなわちみのる)

「禾乃登」は24節気「処暑」の末候(9/2~6)。稲が実って田んぼでは金色の海が波打つ頃。

 なかなか野草の姿が見れないので、アパートから10kmほどのところにある「雪入ふれあいの里」に行ってみた。あいにくの雨模様。駐車場から野鳥の観察広場まで、標高差が60~70mほどもあり、還太郎には難儀なコース。ゆっくりゆっくり上がってみた。はるか向こうに見えるのは霞ヶ浦の湖面かな。
 今日は全て若山牧水の短歌。大岡信の「若山牧水」(中公文庫・昭和56年9月刊)から。

 眼をあげよもの思ふなかれ秋ぞ立ついざみずからを新しくせよ
 s-雪入ふれあいの里から望む20170902

 浪、浪、浪、沖に居る浪、岸の浪、やよ待てわれも山降りて行かむ
 s-紫の花②20170902
 コマツナギ(植物名はS先輩からご教示いただきました。)

 かんがへて飲みはじめたる一合の二合の酒の夏のゆふぐれ
 s-紫の花20170902
 ツルボ。

 何処とはさだかにわかねわが心さびしき時に渓川の見ゆ
 s-ヨウシュヤマゴボウ20170902
 ヨウシュヤマゴボウ。

 さびしさや峰高ければ小さしとひとのいひけむその月を見む
 s-ハギ20170902
 ヤマハギかな。

 幾山河こえさりゆかば寂しさのはてなむ国ぞけふも旅ゆく
 s-白い花20170902
 ヒメジョン。

 白玉の歯にしみとほる秋の夜の酒は静かに飲むべかりけり

 昨日(9/1)は半袖のポロシャツでは寒いほどだった。今日は晴れたが、さすがに9月ともなると朝晩は涼しい。
 皆さま、お健やかにお過ごし願います。

 

乃東枯(なつかれくさかるる)

 「乃東枯」は「夏至」の初候(6/21~25)。夏至の頃に枯れるので「夏枯草」の名がある靭草(うつぼぐさ)の花殻が枯れる頃の意。

 百段(ももきだ)の田をつぎつぎにひたしゆく水の下降に涙湧きくる(前登志夫)  
 s-花②20170624

 青田中真日照るのみの道を来て白き蝶に遭ひ黄の蝶に逢ふ(田中鋭)
 s-花20170624

 朝ぎりの風に流れて少しづつ青田のひかりみどり増しゆく(大郷輝雄)  
 s-ワルナスビ20170624

 人間の技美しき早苗田が水を呼び水が夏雲を呼ぶ(三枝昴之)
 s-花③20170624

 雨つぶのえがく水の輪曼荼羅絵いま水張田は至福のときか(下野惠助)
 s-ヨウシュヤマゴボウ20170624

 あずさゆみ春のひろ野に草萌えて休耕田の畦道をゆく(中川左和子)
 s-クズの葉20170624

 はるかにも花畑つづく此処よりは踵かへせといふ札の立つ(池田まり子) 
 s-クズの葉②

 丘畑にながく待たれし雨なれば空気やはらかに夜を降る音(東長二)
 s-ハス②20170624

 やがて海へ出る夏の川あかるくてわれは映されながら沿いゆく(寺山修司)
 s-ハス③20170624

 くれゆけば潮扁平となる海か具象ならざりし愛もちてきて(生方たつゑ)
 s-花④20170624

 にわたずみまばたくと見れば降りており林にいまだ音あらぬ雨(高安国世)
        (にわたずみ(潦・庭潦)=雨が降って地上にたまったり流れたりする水)
 s-合歓②20170624

 川の瀬に立つ一つ岩乗り越ゆと水たのしげに乗り越え止まぬ(窪田空穂)
 s-紫陽花20170624

 勢ひて流れ来りしが水柱となりて落差を支ふるごとし(江畑耕作)
 s-紫陽花③20170624

 ゆたかなる水のおもてに導きて舟着きの細き板のひとすじ(高安国世)
 s-蝶20170624

 青き葉や花の鉢並ぶる江東区清住町は水の匂ひす(河野愛子)
 s-葉20170624

 腹這ひて論じぬおなじ水脈のみづに育てば草も樹も朋(時田則雄)
 s-葉②20170624

 陽のあたる山翳る山いくひだを穿ちてみづは回廊をなす(岸上展)
 s-葉③20170624

 今日は2週間振りの内牧公園。ガンネ@白岡さんに「内牧ランラン、ただいまスタート」とメールすると、暫くして@白岡さんが愛車(自転車)にて到着。ベランダでのアオガエル飼育の話で盛り上がる。スマホで写真も見せていただくが、孫の写真の開陳のような意気込み。毎度のように「内牧ランラン」に駆け付けてくれる。

 皆さま、暑くなりました。ご自愛願います。
 
プロフィール

kantarou + 6

Author:kantarou + 6
畑や庭での作業を楽しんで、晩酌・早寝・早起きの毎日です。読書やドライブも好きです。

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