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閑人適意(かんじんてきい)

「閑人」は特にすることのない、暇な人。または、風流な人。「適意」は思うままに振舞うこと。(今年のタイトルは漱石・『草枕』の難解熟語)

 今回の短歌は『昭和万葉集秀歌 【三】 四季・自然』(講談社現代新書・上田三四二 編、昭和60年1月刊)から。作者名の後の数字は昭和何年の、或いは何年何月の発表かを示す。

 今日は8/30。この何日か、いわきではめったにないような強烈な雷雨がある。朝晩は大分涼しくなった。晩夏と初秋のせめぎあい。しばらくぶりに田人路へ。林道を2時間ほどドライブ。冷涼な林間は快適。秋の気配。

 滝しぶきかかれるそこら一めんの藺草(いぐさ)の色の青きすがしさ (金子薫園・3.7)
 
 *「藺草」=イグサ科の多年草。湿地に生える。茎を畳表などに用いる。

 s-森林20180830
 
 山ふかく細き流れのせくところゆすられている虎杖(いたどり)の花 (今井邦子・6)

 *「せくところ」=せばまっているところ。「虎杖」=タデ科の多年草。若芽はウドに似。紅色の斑点がある。夏、淡紅色、または白色の花を穂状に開く。若芽を食用とし、根は薬用とする。

 s-森林③20180830

 うす紅き枝はかくれて しみじみと ははきの花も咲きそめりけり (東城士郎・44)

 *「ははき」=帚木(ほうきぎ)。アカザ科の一年草。夏、淡緑色の細花をつける。

 s-森林②20180830

 わが心かすか明るむ思ひして宵の衢(ちまた)に蛍を買ひぬ (岡井弘・7.8)

 s-チョウ20180830 (1)
 あいにく側面しか撮れなかったアゲハチョウ。

 かぐはしのみやまのきのこ籠(こ)にもらば羊歯(しだ)につつみてねもごろにせむ (小川千甕・2.4)
 
 *「かぐはしの」=かぐわしい香りがする。「ねもごろに」=ていねいに。

 s-キノコ20180830

 ゆふ闇の空をとほりていづべなる水にかもゆく一つ蛍は (斎藤茂吉・15)

 s-キノコ②20180830

 うす紅のつりふねさうの花のゆれやぶかげに見て行きすぎかねつ (熊谷武雄・9.11)
 
 *「つりふねさう」=釣舟草。ツリフネソウ科の一年草。山麓や水辺に自生し、秋、茎の先にホウセンカに似た紅紫色の花をつるす。

 s-ツリフネソウ20180830
 ツリフネソウ。

 夕立の雨うちふれり庭のへにひとつの蝉の啼きとほるこゑ (土田耕平・8)

 s-なにかな20180830
 ノダケ(S先輩からご教示有り。以下の青字も同様。)

 秋は来ぬうしろの山の葛の葉の葉うらさびしくもなりにけるかな (谷崎潤一郎・52)

 s-なにかな②20180830
 ダイコンソウ。

 蟋蟀(こほろぎ)の音(ね)に鳴くころとなりにけり夜はすがらに蟋蟀ぞ鳴く (堀内通孝・16)
 
*「夜はすがらに」=一晩中。

 s-ホタルブクロ20180830
 ホタルブクロ。 ツリガネニンジン。

 稲原の早生穂(わせほ)にしろく照る月は夜ごとに明し山の峡(かひ)にも (中村憲吉・9)

 s-ホトトギス20180830
 ヤマジノホトトギス。
 
 薄紙の中に蛍を光らせてたからのごとく子は持ちまわる (小田清一・11)
 
 s-ホトトギス②20180830
 ヤマジノホトトギス。

 雲母雲(きららぐも)薄う漂ふまなかひの秋をはるかに駆ける鳥かも (安西冬衛・2.11)

 *「雲母雲」=雲母のような薄雲。

 s-薄紫の花20180830
 ヤマハッカ。

 白菊はただつつましき花ながら月のてらせばたけたかくみゆ (橋田東声・10)

 s-白い花②20180830
 ゲンノショウコ。

 あかつきの蝉のひとこゑが諸声(もろごゑ)を誘ふあはれをききとめにけり (吉野秀雄・22)
 
 *「諸声」=和して発する多くの声。

 s-黄色の花②20180830
 オミナエシ。

 閼伽桶(あかおけ)に捧げし秋の七草ははかなきまでに清(すが)しかりけり (青柳競・28)

 *「閼伽桶」=仏に供える水を汲みいれる手桶。
 
 s-白い花20180830

 昼しぐれ降り過ぎたれば白萩は下枝(しづえ)の花をあまた散らせり (君島夜詩・10)

 s-黄色の花20180830
 オトギリソウかな? キンミズヒキ。

 秋澄みて散りのこりたる花蓮(はなはちす)とよみはつたふ広き池の上 (吉田正俊・16)

 *「とよみ」=どよめき。

 s-ソバ2010830
 白く見えるところはソバ畑。手前の水田の周囲にイノシシ除けの電線が張られており、ソバ畑には近づけなかった。

 いわきに来たら、昼は畑仕事や実家の裏ヤブの伐採等々の力仕事。よって晩酌をするとすぐ眠くなってしまう。そんなことで暫く本を読んでいなかった。こりゃあいかんと思い、大好きな葉室麟の作品でまだ読んでなかった『あおなり道場始末』(双葉社)を入手。葉室麟の作品にしては珍しく「痛快 ! エンターテインメント時代小説」。一日で読了。その勢いのまま、何年もツンドク状態だった北方謙三の『史記・武帝紀』全7冊(角川春樹事務所)に取り掛かり、悪天候の日が続いたこともあって1週間で読了。まあ、スーパーマンが活躍する劇画みたいなものと言えないこともないが、始皇帝と並び比較される武帝の武帝たるところ、その孤独や逡巡と決断、武帝に仕える官僚や軍人の苦悩等々、北方謙三に引き回されるように読んでしまった。 
 次いで、社会思想家・佐伯啓思の『死と生』(新潮新書)。この類の本には珍しく、何のことかさっぱり理解できないなんてことは書いてない。簡単に言えば、「死は誰も経験していないのだから、誰もわからない。誰もわからないことを心配しても意味がない。ただ、死は避け得ないのだからこそ、生を充実させよう」ということ。

 皆さま、ご機嫌よう ❢ 

楮毫(ちょごう)


「楮毫」は紙と筆の意。「楮」(こうぞ)は和紙の原料となる植物。「毫」は筆の穂先。(今年のタイトルは漱石・『草枕』の難解熟語)

 今回は、過去の写真から涼しげなものを選んでブログを作った。短歌は『昭和万葉集秀歌 【三】 四季・自然』(講談社現代新書・上田三四二 編、昭和60年1月刊)から。作者名の後の数字は昭和何年の、或いは何年何月の発表かを示す。

 (あかとき)とおもふばかりにあかるきは月のひかりのさしそめにけむ (藤川忠治・31)

 s-江竜田の滝
 江竜田の滝(4葉)

 海
 海に向く窓より海はみえなくに甍(いらか)の上にひくき岬山(さきやま) (五味保義・16)

 s-江竜田の滝①

 かたまりて昼顔咲ける砂山をめぐりて潮の満ちくる音す (中嶋真珠・10.9)

 s-江竜田の滝③

 磯に寄せてきほひ脹(ふく)るる大き浪ひかりを巻きて打返りたり (杉浦翠子・3)
 
 s-江竜田の滝②

 渦なせる逆さ白波はひろごりて押しうつりゆく潮ゆたかなり (松田常憲・7)

 s-四時川渓谷
 四時川渓谷(3葉)
 
 兄島を榜ぎ回(こぎた)み行けばちちのみの父島見えつ朝明(あさけ)の海に (中島敦・35)
 *「榜ぎ回み」=船を漕ぎめぐり。「ちちのみの」=「父」にかかる枕詞。

 s-四時川渓谷②

 立山の外山(とやま)が空の蒼(あお)深み一つの鷲の飛びて久しき (川田順・15)

 s-四時川渓谷③

 山頂に雷鳴ありて幾度か保安器を撃ち青き火を放つ (新田次郎)

 s-小浜海岸
 小浜海岸

 三原山噴くにかあらむ御神火の常ことなりて今宵かぐろき (海野潔・9.3)
 *「御神火」=火山の噴火を神聖視していう語。「かぐろき」=黒い。

 s-鮫川大橋
 鮫川大橋

 稲原の早生穂(わせほ)にしろく照る月は夜ごとに明し山の峡(かひ)にも (中村憲吉・9)

 s-蓮
 ハス

 以下、『現代短歌の歩み』(武川忠一著・飯塚書店・2007年6月刊)に依る。

 窪田空穂に『捕虜の死』という大長編の長歌がある。万葉集以来の最大長編。次男茂二郎のシベリア抑留中の死を悼んだもの。茂二郎の死は生還した戦友から昭和22年5月に知らされた。空穂は病床にあり、70歳。それでも残された力を振り絞って、五連・二百二十九句の最大長歌を詠んだ。

 捕虜の死   窪田空穂

 兵として北支派遣軍下にありし次男茂二郎、久しく消息を絶ち、生死すら不明にて過ごせるが、五月中旬、茂二郎が戦友の一人なりといふ米村英男君、はからずも我が家を訪はれ、茂二郎の消息を傳へらる。同君も茂二郎と同じく身體弱きため、入隊以来三年間、あやしくも行動を共にし、その一切を知悉せるにより、仔細に告げられしなり。茂二郎は終戦直前、北支より内地防衛軍に向けられし汽車中、ソ聯開戦によりて満州に移され、終戦と共に捕虜としてシベリアなるイルクーツクチェレンホーボに捕虜の身となれるが、二十一年二月十日、発疹チフスに罹り、死去せりといふ。今より一年三箇月前のことなり。我は床上の身として親しく聴くを得ず、章一郎の傳ふるところを聴きて胸臆に反芻するのみ。

 
 シベリアの涯なき曠野、イルクーツクチェレンホーボの バイカル湖越えたるあなた、炭山を近く望みて あはれなる宿舎むらがる。名にこそは宿舎ともいへ、土浅く廣く掘りては かりそめの仮屋根葺き 出入り口一つ設けし 床すらもあらぬ土室、戦前は囚人住みて 勞役に服せるあとか。かかる室ならび群がり 鐵條網めぐらす内に、在満の我が兵五千 捕虜として入れられにける。

 s-夕焼け20180809

 厳冬のチェレンホーボは 氷點下五六十度か、言絶ゆる畏き寒威 人間の感覚を斷ち、おのが息眞白き見ては 命なほありと思ふに、勞役の搾取のほかは 思ふなき國にかあらし 働かぬ冬は食ふなと 生きの命つなぐに足らぬ 高粱のいささか與へ 粥として食はしむるのみ。夜となれば床なきままに、土に置く狭き板の上 押竝び二人いねては、一枚の毛布をかぶりて 軆温をかよはし眠る。目的を失へるどち 言ふことの何のあらむや、つぶやくは常つづく饑 眼に迫る戀しき祖國、口にすれば暫しまぎるる かひあらぬ訴のみなる。

 s-夕焼け②20180809

 わりなきはただ一着の 身につくる軍服かな、薄くして寒氣のとおり、著きらしてぼろぼろなるに、著がへなきそのシャツをしも、おのれ等が巣どころとなし 饑うる身を食となしつつ ふえにふゆる虱の族よ、その數は幾そくばくぞ。臍のあたり手もて探せばいく匹をとらへは得れど、脱げば身のこほる寒氣に 捕り減らすことすらならぬ。全員の五千に巣くふ この虱チフス菌もち、吸ひし血に代へて殘せば、あはれ見よ忽ちにして大方は病者となりつ、高熱にあへぎにあへぐ。醫師をらず薬餌のあらず、あるものは高粱のみの、この患者いかにかすべき。悲しきは生を欲する 人間の本性なるよ、食はざれば死せむと思ひ 強ひてすする堅きその粥、衰へし腸ををかして 一たびの下痢を起せば、その下痢やとまる時なく 見る見るに面形かはり、物言ひをしつつ息絶ゆ。ここの水ははなはだ惡るし 高熱の渇きこらへて 飲むな夢と相警むれ、飲まざるも命堪へえで 一日に何十人は 息せざる者となりゆく。チェレンホーボ長き一冬、千人や屍軆となりし。

 s-夕焼け③20180809

 戦友のこの悲しきを いかさまに葬りなむか、全土ただ大氷塊の 堀りぬべき土のあるなし。ダイナマイト轟かしめて 氷塊に大き穴うがち、動きうる人ら掻き抱き その中にをさめ隠しつ。初夏の日に氷うすらぎ あらはるる屍軆を見れば、死ぬる日の面形保ち さながらに氷れるあはれさ。その屍軆トラックに積み 囚人の共同墓地ある 程近き岡に運びて、一穴に五人を葬り、捕虜番號書ける墓標を 人の身の形見とはなし、千人の戦友の墓 さびしくも築き竝べけり。

 s-夕焼け④20180809

 死を期して祖國を出でし 國防の兵なる彼等、その死のいかにありとも 今更に嘆くとはせじ。さあれ思ふ捕虜なる兵は いにしへの奴隷にはあらず、人外の者と見なして 勞力の搾取をする 奴隷をば今に見むとは。彼等皆死せるにあらず 殺されて死にゆけるなり、家畜にも劣るさまもて 殺されて死にゆけるなり。嘆かずてあり得むやは。この中に吾子まじれり、むごきかな あはれむごきかな かはゆき吾子。


 八月は千万の死のたましずめ夾竹桃重し満開の花 (山田あき・『現代短歌集成3』から。角川学芸出版刊)

 皆さま、ご自愛専一に願います。 
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kantarou + 6

Author:kantarou + 6
畑や庭での作業を楽しんで、晩酌・早寝・早起きの毎日です。読書やドライブも好きです。

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