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徹骨徹髄(てっこつてつずい)

 「徹骨徹髄」は、骨身にしみること、ものごとの中核、真髄まで達すること。「骨髄に徹する」言葉から生まれた造語。(今年のタイトルは漱石・「草枕」の難解熟語)
 
 今回の短歌は伊藤左千夫。テキストは『わが愛する歌人・第4集』有斐閣新書・昭和53年刊。解説は扇畑忠雄。
 伊藤左千夫〔元治1年(1864年)8月18日~大正2年(1913年)7月30日〕、千葉県出身。実家は農業。明治14年、18歳のとき上京。政治家を志し、明治法律学校に学んだが、眼疾のため退学帰郷。22歳のとき再び上京し、京浜間の牛乳店、牧場で働く。明治22年本所茅場町に牛乳搾取業を営んで生涯にわたった。
 啄木の左千夫評によると「風采はマルデ田舎の村長様みたいで、随分ソソッカシい男だ」とのことだが、島木赤彦、古泉千樫、斎藤茂吉、中村憲吉、土屋文明らの優れた門人を輩出した。

 秋草のいづれはあれど露霜に痩せし野菊の花をあはれむ

 野菊は、左千夫の小説「野菊の花」の少女民子のイメージともいうべく、幼くて可憐な恋愛を象徴する花であった。『ほろびの光』に歌われた鶏頭もツワブキも作者の好きな花だったにちがいない。この花々は寂滅に向かう宗教的な諦念の世界をいろどる形象として、深い意味を持つ存在であった。

 s-20180328桜
 サクラ。

 おりたちて今朝の寒さを驚きぬ露しとしとと柿の落葉深く
 
 s-馬酔木20180329
 アセビ。

 鶏頭のやや立ち乱れ今朝や露のつめたきまでに園さびにけり
 
 s-防火水槽の脇で20180329
 ハナニラ。

  秋草のしどろが端(はし)にものものしく生きを栄ゆるつわぶきの花

 s-黄色の花20180329
 タンポポ。

 鶏頭の紅(べに)古りて来し秋の末や我れ四十九の年行かんとす
  
 s-馬酔木②20180331
 アセビ。

 今朝の朝の露ひやびやと秋草やすべて幽(かそ)けき寂滅(ほろび)の光

 この大正元年作「ほろびの光」一連の五首が、翌年逝去した左千夫の最晩年に達成した傑作であることは誰も否定できないであろう。晩秋の朝露の下りた庭前の景物、柿落葉や鶏頭の花やツワブキの花を素材としながら、単なる自然描写に終わらず、「或期間から深く宗教にも参じた左千夫が、遂に一草一木にもその生の寂滅を観得するに至った」と、茂吉も評している。 

 s-枝垂れ桜20180331

 みづみづしき茎のくれなゐ葉のみどりゆづり葉汝(なれ)は恋のあらはれ 

 「みづみづしき茎のくれない」や「葉のみどり」の感覚からユズリ葉を「恋」の象徴とまで見ているところに、左千夫がそれらの植物を単なる客体として描写するだけではなく、対象を作者の側に引きよせた主体的な作家態度をうかがうことができよう。

 s-桜2018331

 さみだれの小暗き庭にくれなゐの光をともす夾竹桃の花

 左千夫は合歓、夾竹桃、秋海棠、野菊などを好んでいる。ほのかに紅い花や清楚で可憐な花が一種の恋愛的情調に通ずるからであろう。

 s-ヤマザクラ20180401

 人の住む国辺(くにべ)を出でて白波が大地両分(ふたわ)けしはてに来にけり

 s-コブシ20180401
 コブシ。

  春の海の西日にきらふ遥かにし虎見が崎は雲となびけり

 これらは九十九里浜を詠んだもの。天地創造の原始を思わせるような雄渾で緊迫した歌風は、他に類を見ないのではあるまいか。

 s-いろはもみじ20180401
 カエデ。
 以下は『冬のくもり』から。

 我がおもひ深くいたらば土の底よみなる友に蓋(けだ)し通はむ

 s-青い花20180401
 タチツボスミレ。

 よみにありて魂(たま)静まれる人らすらもこの淋しさに世をこふらむか

 s-新葉②20180401
 コナラ。

 裏戸出でて見る物もなし寒む寒むと曇る日傾く枯葦の上に

 s-新葉20180401
 コナラ。

 ものこほしくありつつもとなあやしくも人厭(いと)ふこころ今日もこもれり

 s-桜の山20180401

 よみにありて人思はずろうつそみの万(よろず)を忘れひと思はずろ

 茂吉は、「全体を貫く漢字は悲哀であり憂鬱であり、暫し周囲と断って籠りたい感じである。天地に満ちわたる悲哀といふやうなものを既に表現し了せているのである」と評している。

 s-ヤマザクラ②20180401

 今週読んだ本。売れっ子の二人の作。「おもかげ」の主人公は65歳で退職する送別会の晩に、帰宅の電車の中で倒れて意識不明に。同い年の還太郎には身につまされる作品。「アノ二ム」は美術ものながら、国際陰謀痛快撃退小説。

 s-本20180401
 
 25日は上野公園へ、31日は笠間へ行き、満開の桜を楽しんだ。皆さま、ご健勝にお過ごしください。
 

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山へ入って

桜で明るい山の写真、いいですね。

明日から3日ほど山学校へ行ってきます。
ちょうど山の桜が見ごろかな。
奥の方の山桜はまだこれからかもしれません。
久しぶりに、山へ入ってみようと思っています。
春雨や心の奥の吉野まで(哥川)


都心に出るときには、「野菊の墓」の舞台となった矢切の渡しを電車で越えて行きます。
今は小説の面影を見つけるのは少し難しいですが。

梨の花も満開❢

ビッキさん

コメント、ありがとうございます。
野も山も花、花、花で、心が浮き立ちます。
茨城は果樹栽培も盛んですが、梨の花もいま満開です。

還太郎 拝

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kantarou+5

Author:kantarou+5
週末の近郊里山徘徊を楽しみつつ、足腰の衰えを防止しています。読書やドライブも好きです。

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