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片岡之 此向峯 椎蒔者 今年夏之 陰尓将化疑 (詠み人知らず)

 片岡の この向つ峯に 椎蒔かば 今年の夏の 陰にならむか (詠み人知らず)

 (真夏の日差しには参るから) 片岡の向こうの峯に椎を蒔いたならば、今年の夏は木陰になるだろうか (吾が恋の成就はなるかな) の意。片岡は奈良県北葛城郡王寺町から香芝市志都美地方にかかる地域。

 今年のタイトルは万葉集から。そして、短歌は『現代の短歌』(篠弘編・東京堂出版・2012年1月10日刊)から。この本には100人の歌人・3,840首が採られている。今回は斎藤茂吉、明治15年、山形県上山(かみのやま)生まれ。精神科医。写生論を広義に拡大し、内面的な苦悩や幻想的な美をつかむ。昭和28年、70歳で没。

 このくにの空を飛ぶとき悲しめよ南へむかふ雨夜(あまよ)かりがね

 昭和24年4月刊の『小園』から。いちずに戦時体制に協力した茂吉は、敗戦によって「沈黙」を強いられる。ここから6首はいずれも戦後の作品で、疎開して戦後も住んでいた上山で詠んだもの。

 s-サクラ芽吹く20190401
 今回の写真はすべて4/1勿来の関にて。桜の様子を見に行ったのだが、全体としてはまだまだ。

 くやしまむ言(こと)も絶えたり爐のなかに炎のあそぶ冬のゆふぐれ

 s-ヤマザクラ③20190401

 秋晴のひかりとなりて楽しくも実りに入らむ栗も胡桃も

 茂吉の高弟の柴生田稔(明治大学文学部部長)は、この頃の茂吉の和歌を次のように評価している。「茂吉の生涯を通じて最高の位置に位するものではあるまいか。そこにはただ、高く澄んだ悲しみの調べだけがある。<楽しくも>と言って、無限の悲哀を伝えてくる。敗戦の苦痛の中に、茂吉はかうした悲歌を後世にのこしたのであつた。」

 s-ヤマザクラ20190401

 ひむがしに直(ただ)にい向ふ岡にのぼり蔵王の山を目守(まも)りてくだる

 目のまへに並ぶ氷柱にともし火のさす時心あたらしきごと 

 s-ヤマザクラ④20190401

 雪ふぶく丘のたかむらするどくも片靡(かたなび)きつつゆふぐれむとす

 s-白い花②20190401
 
 蔵王より離(さか)りてくれば平らけき国の真中(もなか)に雪の降る見ゆ 

 この歌から昭和24年8月刊の『白き山』から。茂吉は金瓶村から北方の大石田に転居。岡井隆の評は次の通り。
 「その蔵王から離れて、更に北方へ流されていく自己流謫である。大歌人として、愛国歌人として、名をうたはれた茂吉は、寂しい、みじめな敗北者として、北方へ流れて行く。雪は、ここでは茂吉をとりまく状況のきびしさの象徴なのである。
 
 s-鳥20190401
 ツグミかな。

 臥処(ふしど)よりおきいでくればくれなゐの罌粟(けし)の花ちる庭の隈(くま)みに

 s-白い花20190401
 アセビ。

 わが病やうやく癒えて歩みこし最上の川の夕浪のおと 

 s-新葉20190401

 近よりてわれは目守(まも)らむ白玉の牡丹の花のその自在心

 s-新葉②20190401

 秋づくといへば光もしづかにて胡麻のこぼるるひそけさあり

 s-紫の花2010401
 ショウジョウバカマ。

 かりがねも既にわたらずあまの原かぎりも知らに雪ふりみだる
 
 s-何かな②20190401

 運命にしたがふ如くつぎつぎに山の小鳥は峡(かひ)をいでくる

  s-ツバキかな20190401

 これからの3首は、昭和29年2月刊の『つきかげ』から。

 もろ膝をわれは抱きて山中にむらがる蝉を聞きゐたり
 
 s-なにかな20190401

 暁の薄明に死を思ふことあり除外例なき死といへるもの

 医師・歌人であった上田三四二は。この歌を下記のように評している。
 『つきかげ』中屈指の秀歌であり、全歌集に照らしても記憶されるべき一首であろう。厳粛に死という事実に向きあい、怖れつつ、その前に頭を垂れている。 この頃より茂吉の体調は一段と衰えを加え、死の近いこと自覚するに至っている。

 s-キブシ20190401
 キブシ(木五倍子)。

 老いづきてわが居る時に蝉のこゑわれの身ぬちを透りて行きぬ

 以下、おまけ。
 (かけはし)久美子著『原民喜・死と愛と孤独の肖像』(岩波新書)を読んだ。原民喜は1905年広島生まれ。1945年、疎開していた広島で被爆。戦後次々と作品を発表。原爆の悲惨さを描いた「夏の花」は水上瀧太郎賞受賞。

 小説家安西寛子は「広島が言わせる言葉」の中で、次のように書いている。
 
 うろたえぬ目、とまどわぬ耳。悲惨を、残酷をあらわし訴えようとした人々からとかく見過されやすかった広島、締め出されやすかった広島がそこにあり、わたしはその配合に緊張し、また温まる。(中略)
 原民喜は、貴重な資質と意志とによって、意味づけのない広島を遺し得た稀有の人である。眩しく恐ろしい人類の行方についてのあらゆる討議の前に、一度は見ておかなければならないもの、一度は聞いておかなければならないものがここにある。

 今晩(4/2)のいわきの気温は2~3℃、明け方は1℃との予報。昼も寒かった。皆さま、温かくしてお過ごしください。
 

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還太郎+7

Author:還太郎+7
畑や庭での作業を楽しんで、晩酌・早寝・早起きの毎日です。読書やドライブも好きです。

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